最高裁判所平成26年7月17日判決「父親」に関する判例をご紹介します。まず、民法772条という条文をご覧いただきましょう
民法772条は2項から見ていくとわかりやすいです。2項によると、婚姻成立の日(つまり婚姻届を出した日)から200日を経過した後に生まれた子は、婚姻中に懐胎した(つまり身ごもった)と推定されます。
たとえば、太郎さんと花子さんが1月1日に婚姻届を出し、花子さんが8月1日に子どもを産んだとすると、その子は婚姻中に身ごもったと推定されます。そして、婚姻中に身ごもったと推定されると、772条1項によって夫の子、つまり太郎さんの子と推定されます。太郎さんは子の父親と推定されるわけです。これで世の中は大体円満に進んでいきます。
しかし、円満に進まないケースもあります。
たとえば、花子さんが8月1日に子を産んだとして、花子さんが次郎さんと不倫関係にあり、この子のDNA検査によって生物学上の父親は次郎さんである確率が99.99パーセントであったとしたら、父親は次郎さんになるのでしょうか。それとも民法772条によって戸籍上の父親である太郎さんになるのでしょうか?
最高裁判所は、法律上の父親は太郎さんであると判示しました(最高裁判所平成26年7月17日判決・裁判所ホームページをご参照下さい)。最高裁判所は、このようなケースでも民法772条が適用されると判断したのです。
上記のようなケースでは、おそらく花子さんは太郎さんと別れて暮らすようになり、花子さんは次郎さんと子と3人で暮らし、子は次郎さんのことを「お父さん」と思って大きくなることが予想されます。
花子さんとすれば太郎さんと離婚しなければ次郎さんと婚姻することはできません。また、太郎さんが死んでも子は太郎さんの相続人になりますが、次郎さんが死んでも次郎さんの相続人になることはできません。花子さんとしては、太郎さんと離婚する手続を進めるでしょうし(離婚調停や離婚訴訟)、次郎さんは自分が死んだときのことを考えて財産を子に与える旨の遺言状を作っておいた方がよろしいかと思われます。
科学の進歩によって、DNA調査により親と子の関係が100パーセント近い確率で証明できるようになりました。
父親と子との関係をこのような科学的な証明に基づく血のつながりで決定するのか、法律に当てはめることによって決定するのか、難しい選択です。